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技術は多重衝突事故を防げるのか:エンシェーピングの事故から学ぶ

作成者: Johan Hägg|3 9, 2025

2025年2月、スウェーデン・エンシェーピング近郊のE18高速道路で、大規模な多重衝突事故が発生しました。冬休み(スポーツ休暇)に向かう家族連れの移動から始まった交通の流れは、突如として発生したブラックアイス(路面凍結)と高速走行が重なったことで、極めて危険な状況へと一変しました。
急激に変化した路面状況と、前方で急減速した車両に対応できなかった結果、複数の車両が次々と衝突する連鎖事故へと発展しました。

多重衝突事故の構造

事故当日、E18高速道路の一部区間で突如ブラックアイスが形成されました。これは特に危険な現象で、通常の路面状態から、わずかな距離の中で極端に滑りやすい状態へと急変します。
冬のレジャーへ向かう家族を乗せた車両を含む複数の車が、凍結区間に進入した瞬間にスリップし始めました。ブレーキ操作を試みたものの、すでに減速または停止していた前方車両への衝突を避けることはできませんでした。

さらに後方を走行していた車両のドライバーには、ほとんど事前の警告がなく、異変に気づいた時には回避行動を取るには遅すぎる状況でした。その結果、多数の車両が関与し、複数の負傷者を伴う多重衝突事故となりました。

 

 

ブラックアイスを理解する

ブラックアイスは、冬季における最も予測困難な道路危険要因の一つです。路面が湿った状態で気温が急激に氷点下へ下がることで、ほぼ瞬時に薄い氷の層が形成されます。特に危険とされる理由は以下の通りです。

  • 非常に短時間で形成され、視覚的にほとんど認識できない

  • 橋梁部や日陰など、微気候の違いがある場所で局所的に発生する

  • 乾燥したアスファルトと比較して、タイヤと路面の摩擦が最大90%低下する可能性がある

通常の高速走行速度では、ブラックアイスが突然出現した場合、反応時間や制動距離が決定的に不足してしまいます。

 

 

技術的解決策:コネクテッド・ビークル・システム

将来的に同様の事故を防ぐ可能性を持つ技術として、走行中の車両から得られるデータを活用し、危険な路面状況をリアルタイムで検知・警告するコネクテッド・ビークル技術があります。
その一例がNIRA DynamicsのRoad Surface Alerts(RSA)ですが、同様の技術は他の企業や研究機関でも開発が進められています。

これらのシステムはどのように機能するのか

コネクテッド道路安全システムは、現代の車両にすでに搭載されているセンサー—ホイールスピードセンサー、加速度センサー、ジャイロスコープなど—から得られるデータを活用します。
タイヤと路面の相互作用を分析することで、摩擦の変化を検知し、滑りやすい路面状態を特定します。なお、車両が明確にスリップしていない段階でも検知が可能です。

ある車両が滑りやすい区間を検出すると、その情報はクラウドベースのシステムに即座に送信され、周辺を走行する他の車両に警告として共有されます。

こうしたシステムの革新的な点は以下の通りです。

  • 新たな路側インフラを必要としない

  • 数キロメートル先の路面状況を事前に把握できる

  • 車載ナビゲーションシステムやスマートフォンアプリに直接警告を表示できる

これにより、車両同士、さらには交通インフラとの情報共有が可能となり、路面状況に対する「集合的な認識」が形成されます。ドライバーは状況に応じた速度調整が可能となり、安全性が大きく向上します。

 

事故防止の可能性

仮に、エンシェーピング事故当日にこのような路面監視技術が広く導入されていたとしたら、事故の展開は大きく異なっていた可能性があります。

  • 最初にブラックアイスに遭遇した車両が、急激な摩擦低下を自動的に検知

  • その情報が即座にクラウドシステムへ送信

  • 後方を走行するドライバーが事前に警告を受信

  • 凍結区間に到達する前に速度調整が可能

  • 警告に基づき、アダプティブ・クルーズ・コントロールや自動ブレーキが早期に作動

結果として、多重衝突の連鎖そのものを回避、あるいは被害規模を大幅に抑えられた可能性があります。

 

映像では、最初の事故が発生するはるか以前に、路面の滑りやすさが検知されている様子が示されています。その時点で警告を発信できていれば、特定地点における極めて危険な路面状況を事前にドライバーへ伝えることが可能だったはずです。

 

将来展望と課題

大きな可能性を秘める一方で、コネクテッド路面警告システムの普及にはいくつかの課題も存在します。

  • すべての車両がデータ収集に必要なセンサーを搭載しているわけではない
    ただし、コネクテッドナビゲーションを搭載している車両であれば、受信側として警告情報を活用可能です。スマートフォンのナビアプリも同様で、データ自体はすでに存在しています。

  • 十分な効果を得るには、一定数以上のコネクテッド車両が必要

とはいえ、データ収集可能なコネクテッド車両の数は日々増加しています。車両全体の10〜15%に限定された導入であっても、すべての道路利用者にとって大きな安全効果をもたらす可能性があります。

 

代替的な予防策

コネクテッド・ビークル・システムは包括的な解決策を提供しますが、他にも事故防止や被害軽減に寄与する技術・施策は存在します。

  • ABS制動データ警告:急ブレーキ情報を活用した警告

  • 停止車両警告:前方の停止車両を検知・通知

  • 可変速度標識:路面状況に応じて制限速度を変更

  • 路面凍結対策の重点実施:特定区間での予防的処置

  • 路面気象情報システム(RWIS):危険な気象条件の予測と共有

  • ドライバー教育・啓発活動:人的要因へのアプローチ

これらは事故低減に一定の効果を持つものの、それぞれに限界があります。ABS制動データ警告や停止車両警告は、すでに危険状況に遭遇し、急制動が発生した後の「事後対応型」であり、予防的とは言えません。ただし、連鎖衝突の深刻化を抑える効果は期待できます。

可変速度標識は有効ですが、必要なインフラ整備に高いコストがかかり、かつ信頼できるデータ入力が不可欠です。

特定区間への路面対策は、計画性と投資を要するものの、既知の危険箇所に対しては費用対効果の高い手段です。これらはRWISと併用されることが多い一方、気象観測点の数は限られており、増設には高いコストが伴います。

ドライバー教育や啓発活動は長期的な効果が期待できますが、その実効性はドライバーの遵守意識に左右されます。

 

結論

エンシェーピング近郊で発生した多重衝突事故は、冬季条件下において交通状況がいかに急速に悪化し得るかを改めて示しています。同時に、こうした事故を未然に防ぐために、すでに利用可能な技術を導入する必要性を強く浮き彫りにしています。

コネクテッド道路安全システムは、車両を孤立した存在ではなく、相互につながるネットワークの一部として捉えるという、交通安全におけるパラダイムシフトを象徴するものです。すでに一部の車両モデルでは実用化されており、そのデータは道路管理機関にも提供され、冬期道路管理の高度化に役立てられています。

電動化や自動化が進むこれからの交通社会において、こうした技術は事故防止と人命保護にますます重要な役割を果たすでしょう。
次に同じ状況が起きたとき、より深刻な結果を避けられる保証はありません。今こそ、行政機関、保険会社、自動車メーカーが連携し、こうしたシステムの導入を加速すべき時ではないでしょうか。